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東京地方裁判所 昭和56年(ワ)7637号 判決

原告 能島満子

<ほか二名>

右三名訴訟代理人弁護士 古川景一

右訴訟復代理人弁護士 青木護

被告 川澄孝次郎

右訴訟代理人弁護士 山崎

被告 和田愛子

右訴訟代理人弁護士 佐野徹

同 岡本好司

被告 株式会社 マルゼン

右代表者代表取締役 渡辺昌彦

右訴訟代理人弁護士 中川清太郎

同 中川みどり

同 永島寛

主文

一  被告株式会社マルゼンは、原告能島満子に対し金三九九万三〇〇〇円、原告能島一喜に対し金五〇〇万円、原告有限会社能島商会に対し金三七万五二二一円及び右各金員に対する昭和五四年九月二日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らの被告株式会社マルゼンに対するその余の請求及び被告川澄孝次郎、同和田愛子に対する各請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用中、原告らと被告株式会社マルゼンとの間に生じたものはこれを二分してその一を原告ら、その余を被告株式会社マルゼンの各負担とし、原告らと被告川澄孝次郎及び同和田愛子との間に生じたものは原告らの負担とする。

四  この判決は、原告ら勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、各自、原告能島満子(以下「原告満子」という。)に対し金八八四万一〇〇〇円、原告能島一喜(以下「原告一喜」という。)に対し金六四四万二〇〇〇円、原告有限会社能島商会(以下「原告会社」という。)に対し金三〇二万円及び右各金員に対する昭和五四年九月二日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  本件火災の発生

(一) 昭和五四年九月一日午後一時一三分ころ、被告和田が経営するレストラン「ヴェジタリアン」(以下「本件店舗」という。)の所在していた別紙物件目録一記載の建物(以下「出火建物」という。)の東側のベニヤ板の壁から出火し、東側の隣接建物を経て、原告満子所有の別紙物件目録二記載の建物(以下「被害建物」という。)に延焼する火災(以下「本件火災」という。)が発生した。

(二) 本件火災は、被告和田が、昭和五四年五月に被告株式会社マルゼン(以下「被告マルゼン」という。)から購入して本件店舗内の調理室に設置されていた業務用オーブン付きガスレンジ(以下「本件ガスレンジ」という。)が、出火場所の磁器タイル張りのベニヤ板の壁に、壁面との間隔がわずか三ミリメートルしかない状態に接着して設置されていたことから、営業時間中は常時加熱された状態にある本件ガスレンジの後部から発する熱が、磁器タイルを通じてベニヤ板の壁に伝わり、長時間かかってベニヤ板の壁を炭化させた結果、ベニヤ板の壁が長期低温加熱による無炎発火を起こしたことにより発生したものである。

2  被告らの責任原因

(一) 被告川澄

(1) 土地工作物責任

① 被告川澄は、出火建物の所有者であり、被告和田に同建物を賃貸していた者であるが、次に述べる理由により、右建物について民法七一七条一項の「占有者」に該当する。

イ 被告川澄は、被告和田に出火建物を賃貸することにより同建物を間接占有していた者であり、民法七一七条一項の「占有者」には間接占有者も含まれる。

ロ 民法七一七条一項の「占有者」は、瑕疵ある工作物を事実上管理支配している者に限定されず、瑕疵ある工作物を修補すべき地位にある者を含むと解すべきであるが、賃貸建物の構造上の問題については、賃借人が勝手に手を加えることはできず、その修補の責任は賃貸人たる所有者にあるのであるから、出火建物の賃貸人である被告川澄は、右「占有者」に該当する。

② 出火建物の瑕疵

レストラン営業では、オーブン付きガスレンジを使用するのが通常であり、オーブンの部分は、調理の際料理の種類によっては二五〇度程度に加熱して用いられ、また、注文があれば直ちに調理に取りかかれるよう常時加熱保温された状態にある。したがって、レストランの調理室は耐火構造とされていなければならず、少なくともガスレンジの設置された付近は耐火構造でなければならない

ところが、出火建物の調理室の壁は、厚さ一二ミリメートルのベニヤ板のみでできており、そのうち本件ガスレンジの背面部分には、ベニヤ板の上に厚さ五ミリメートルの磁器タイルが貼られているのみであった。

出火建物は、防火地域内にあったにもかかわらず、その調理室の壁面が右のような状態であったことは、建築基準法六一条に違反するのみならず、建物の構造上の瑕疵にあたる。

そして、本件火災は、出火建物の右構造上の瑕疵によって発生したものであるから、被告川澄は、民法七一七条による損害賠償責任がある。

(2) 不法行為責任

被告川澄は、出火建物の調理室東側の壁面がベニヤ板一枚でできていること及び昭和五四年五月に右調理室の改装が行われ、本件ガスレンジが右ベニヤ板に磁器タイルが貼られただけで、壁にわずか三ミリメートルの間隔しかない状態で設置されていたことを熟知していた。ところで、常時高温に加熱されるガスレンジに近接して可燃物がある場合に、それが発火する危険性が極めて高いことは通常人であれば容易に予見することができる事柄であるから、被告川澄が、調理室を板壁のまま出火建物を賃貸して被告和田にレストラン営業のため使用させていたことは、故意に等しい重過失というべきである。

したがって、被告川澄は、民法七〇九条により損害賠償責任を負う。

(二) 被告和田

(1) 土地工作物責任

被告和田は、出火建物を被告川澄から賃借してこれを直接に占有していた者であって、前記2、(一)、(1)、②記載のとおり出火建物には構造上の瑕疵があり、右瑕疵によって本件火災が発生したのであるから、同被告は、民法七一七条による損害賠償責任がある。

(2) 不法行為責任

被告和田は、本件火災の原因である本件ガスレンジを日常的に使用する者として、その火力を十分に認識し、かつ、出火建物の調理室の東側壁が、前記のような構造であることを知りながら、これに接着して設置された本件ガスレンジを使用していたものであり、高温の器具に木材が接着して置かれた場合に、長時間の加熱によって木材が漸次炭化していき、ついには火種が無くても発火するに至ることは、容易に予見することができるから、右被告和田の行為は、故意に等しい重過失を構成する。

(三) 被告マルゼン

被告マルゼンは、厨房機器の製造、販売業者であるが、これに付随して顧客の求めに応じて厨房機器を中心とする調理室のレイアウトを設計し施工する業務も行っていたところ、昭和五四年四月上旬ころ、被告和田から本件店舗の厨房設備及び施設の改装工事を請負い、業務提携しているインテリアICVこと石川保(以下「インテリアICV」という。)に内装工事全般の設計、施工及び監理を担当させ、自らは厨房機器の選定、配置設計及び設置工事を担当した。そして、同年五月九日ころ、被告マルゼンの従業員の森田巌(以下「森田」という。)及び千葉馨は、内装工事の終わった本件店舗の調理室に本件ガスレンジを搬入し、同室東側の壁に接着してこれを設置した。

被告マルゼンは、厨房機器の専門業者として、可燃物に近接してガスレンジを設置した場合に長期低温加熱による無炎着火現象の発生する危険性を熟知していたものであるから、そもそも耐火構造とされていない木造家屋に業務用オーブン付ガスレンジを設置してはならないし、設置方法としても木材に近接してガスレンジを設置することは避けるべき注意義務を負っていたにかかわらず、これを怠って本件ガスレンジを耐火構造でない出火建物の板壁に接着して設置したものであり、右過失は故意に匹敵する重大な過失である。

したがって、被告マルゼンは民法七〇九条により、本件火災によって原告らに生じた損害の賠償責任がある。

3  損害

(一) 原告満子 合計八八四万一〇〇〇円

(1) 建物 三九三万五〇〇〇円

原告満子所有の被害建物は、本件火災により一階天井部分より上の大部分を焼失し、その焼失割合は九〇パーセントである。そして、被害建物の再取得価格は一坪当たり三五万円を下らず、また、店舗部分は一六坪あり、その内装費用は一坪当たり一〇万円を下らないから、これらを基礎に被害当時の右建物の減価償却率を二割として損害を算定すると、一二九三万五〇〇〇円(千円未満切り捨て)となる。

ところで、原告満子は、火災保険から右損害のうち九〇〇万円の填補を受けたから、これを右損害額から控除すると、残余の三九三万五〇〇〇円が被害建物の損害となる。

(2) 家財 三九〇万六〇〇〇円

原告満子は、被害建物の二階に居住していたが、本件火災により同原告所有の家財が全部焼失した。右家財の時価は六九〇万六〇〇〇円を下らないが、火災保険から右損害のうち三〇〇万円の填補を受けたから、これを控除すると残余は三九〇万六〇〇〇円となる。

(3) 慰謝料 一〇〇万円

原告満子は、亡夫が戦病死した後、戦後の混乱期に母の手ひとつで子を育て、原告会社を経営してきたものであり、本件火災当時は心臓疾患に罹患していたが、本件火災により思い出の品を全部失い、心労のため心臓病も悪化した。右苦痛を慰謝するに相当な慰謝料は一〇〇万円を下らない。

(二) 原告一喜 六四四万二〇〇〇円

原告一喜は、被害建物の二階に居住し、本件火災により同原告所有の家財も全部焼失したが、右家財の時価は六四四万二〇〇〇円を下らず、同額の損害を被った。

(三) 原告会社 三〇二万円

原告会社は、被害建物の一階でスポーツ用品販売業を営み、同建物の一階及び二階に商品を陳列又は保管していたが、本件火災により右商品の大半は水をかぶり、煙にいぶされ又は焼かれて商品価値を失った。右損害の合計は九八二万一五〇〇円を下らないが、そのうち六八〇万一二八四円は火災保険から填補されたので、残余の損害額は三〇二万円(千円未満切り捨て)となる。

4  よって、被告らに対し、原告満子は八八四万一〇〇〇円、原告一喜は六四四万二〇〇〇円、原告会社は三〇二万円及びこれらに対する不法行為後の昭和五四年九月二日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

(被告川澄)

1 請求原因1の事実は認める。

2 同2の(一)について

(一) (1)①のうち、被告川澄が、出火建物を所有し、同建物を被告和田に賃貸していたこと及び同建物の間接占有者に該当することは認めるが、その余の事実は否認し、主張は争う。

民法七一七条の「占有者」に間接占有者が含まれるとしても、同条が所有者と占有者の責任を分けた趣旨からすれば、「占有者」は間接占有者のうち、直接占有者の目的物支配に対して全般的に指示、介入できる立場にある者に限られると解すべきであって、被告川澄は、被告和田に対して、出火建物の基本構造に係わらない内装の仕様や厨房機器の配置等についてまで指示、介入できる立場にはなく、かつ、本件火災の出火原因は、もっぱら右内装の仕様及び厨房機器の設置方法の不適切にあったのであるから、被告川澄は同条の「占有者」にはあたらない。

(二) (1)②のうち、レストラン営業で通常オーブン付きガスレンジが使用され、右オーブンが営業中常時加熱保温された状態にあること及び出火建物が防火地域内にあったことは認めるが、その余は否認する。

レストランの調理室の建物としての基本構造が、一律に耐火構造でなければならないことはなく、本件店舗のような小規模のレストランにおいては、壁ぎわにレンガを積むとか、壁とガス器具との間に十分な間隔を置いて空気の断熱帯を設けるなどの耐火設備を室内に設置することによって、火災発生を十分予防することができるから、出火建物の調理室の壁が耐火構造となっていなかったことは、建物の構造上の瑕疵にあたらない。

(三) (2)の事実は否認する。

3 同3の事実は知らない。

(被告和田)

1 請求原因1の事実は認める。

2 同2の(二)について

(一) (1)のうち、被告和田が出火建物を被告川澄から賃借し、これを直接に占有していたこと、同建物の調理室の壁が厚さ一二ミリメートルのベニヤ板製で、本件ガスレンジの背面部分には、ベニヤ板の上に厚さ五ミリメートルの磁器タイルが貼られていたこと及び同建物が防火地域内にあったことは認めるが、その余は否認し、主張は争う。

レストランの調理室が常に耐火構造でなければならないという根拠はなく、本件ガスレンジのような比較的小型のガスレンジについては、壁面から一定の距離を保って設置すれば、火災発生の危険はないのであり、現に本件ガスレンジを設置する以前に本件店舗に設置されていたガスレンジは、壁面から約一五センチメートル離してあったため、火災が発生することはなかった。

また、出火建物は、防火造一部木造二階建、延床面積四六平方メートルの簡易耐火建築物であるから、建築基準法六一条にも違反していない。

したがって、出火建物に構造上の瑕疵はない。

(二) (2)のうち、被告和田が出火建物の調理室の東側壁面の構造を知っていたこと及び本件ガスレンジを使用していたことは認めるが、その余は否認する。

後記抗弁で主張するとおり、被告和田には、本件ガスレンジの設置及び使用について過失はない。

3 同3の事実は知らない。

(被告マルゼン)

1 請求原因1のうち、(一)の事実は認めるが、(二)の事実は否認する。

本件火災の出火原因は、本件ガスレンジの熱によるものではなく、漏電、タバコの吸いがら等他の原因によるものである。

2 同2の(三)のうち、被告マルゼンが厨房機器の販売業者であり、昭和五四年五月九日ころ、本件ガスレンジを被告和田に販売してこれを本件店舗に搬入したことは認めるが、その設置位置は知らず、その余の事実は否認する。

本件店舗の厨房設備及び施設の改装工事を被告和田から請負ったのは、インテリアICVであって、被告マルゼンではなく、同被告は、単に本件ガスレンジを被告和田に販売しただけで、その据付も被告和田の夫及びインテリアICVの指示により設置したにすぎない。そして、仮に本件火災の出火原因が本件ガスレンジの熱によるものであるとしても、その責任はレストランの調理室を耐火構造にすべき法律上の義務を負担しながらこれを怠っていた被告川澄及び同和田らにあり、被告マルゼンには本件火災について責任はない。また、仮に被告マルゼンの従業員の森田が、本件ガスレンジの設置の際にそれが接着する壁の構造がベニヤ板に磁器タイルを貼ったものであることを知っていたとしても、失火ノ責任ニ関スル法律(以下「失火責任法」という。)の重過失はほとんど故意に近い著しい注意欠如の状態を指すものである(最高裁判所昭和三二年七月九日判決民集一一巻七号一二〇三頁)ところ、右森田は、本件ガスレンジの後部が二重構造となっていて高熱が出ることはなく、これを壁に接着して設置しても危険はないと判断していたのであり、同人がこのように判断したことが客観的に見て誤っていたとしても、それがほとんど故意に近い著しい注意欠如の状態といえないことは明白であって、同人に重過失はない。

3 同3の事実は争う。

三  被告和田の抗弁

1  本件ガスレンジは、被告和田が昭和五四年四月から五月にかけて行った本件店舗改装工事の際に、被告マルゼンから購入したものであるが、被告の夫の和田久夫は、右改装工事を請負った訴外石川及び厨房設備の設計と販売を担当した被告マルゼンの従業員森田に対して、ガスレンジの周囲にブロックを積むか、ガスレンジを壁から離すなどの耐火方法を講じるよう要請したにもかかわらず、右森田が本件ガスレンジは後部が二重構造になっていて余熱が回らないようになっているから、タイル貼りのベニヤ板壁に接着して設置しても危険はないと述べたため、専門業者の右森田の説明を信頼してそれ以上の措置をとらないまま本件ガスレンジを使用していた。

2  ところが、本件火災後になって、本件ガスレンジは後部が二重構造となっておらず、内部の熱がそのまま背面に伝導する一重構造のものであって、右森田は本件ガスレンジの構造を誤認していたことが判明した。

3  したがって、仮に出火建物の壁に瑕疵があったとしても、被告和田は、右瑕疵によって損害の発生することのないよう十分注意していたにかかわらず、被告マルゼンの従業員の誤った説明により火災発生の危険を予見することが不可能であったのであるから、民法七一七条一項但書により被告和田に土地工作物責任はない。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1のうち、本件ガスレンジが、被告和田が昭和五四年四月から五月に行った本件店舗の改装工事の際に、被告マルゼンから購入したものであることは認めるが、その余は知らない。

2  同2の事実は認める。

3  同3の事実は否認する。

第三証拠《省略》

理由

一  本件火災の発生について

1  請求原因1(一)の事実は、当事者間に争いがない。

2  同1(二)の事実は、原告と被告川澄及び同和田との間では争いがなく、被告マルゼンとの間では、《証拠省略》によってこれを認めることができ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

二  被告らの責任について

1  出火建物の状況等

《証拠省略》によれば、次の事実(一部当事者間に争いのない事実を含む。)を認めることができ、これを左右するに足りる証拠はない。

(一)  出火建物は、昭和二〇年代に建築された外壁モルタル一部ベニヤ、屋根トタン葺の防火造一部木造、延べ面積四六平方メートルの二階建建物で、一、二階とも被告和田の経営する本件店舗として使用されている。同建物は、別紙図面1記載の②及び⑤の建物(いずれも店舗兼住宅で、延べ面積は②の建物が一三二平方メートル、⑤の建物が一六平方メートルである。)と共用の板壁によって接続していた。また、同建物の所在する地域は、用途地域として商業地域に指定され、かつ防火地域に指定されている。

(二)  被告和田は、本件火災発生の約四か月前である昭和五四年四月二九日から五月一〇日ころにかけて、本件店舗の内装の改装工事を行い、厨房機器も新しくした。右改装工事は、インテリアICVが被告和田から請け負い、厨房機器の配置設計と納入は、被告マルゼンが行った。

(三)  右改装後の出火建物一階の状況は別紙図面2のとおりであり、中央部のカウンターの南側が調理室となっていて、カウンターと二階へ通じるリフトの中間に本件ガスレンジが配置されていた。

調理室の床は、モルタルに磁器タイル張り、天井は耐火性の石膏ボード(プラスターボード)であり、本件ガスレンジの背部の壁は、東側の別紙図面1②の建物と共用の木製の構造壁の上に厚さ約一二センチメートルのベニヤ板の内壁を張り、その上に厚さ約五ミリメートルの磁器タイルが接着剤で貼られており、本件ガスレンジは、後部が右の壁に約三ミリメートルの間隔しかない、ほぼ接着された状態に設置されていた。

(四)  本件ガスレンジは、被告マルゼンが、訴外ヒカリ厨房株式会社(以下「ヒカリ厨房」という。)から仕入れたものを、被告マルゼンの製品として被告和田に販売したものであり、幅一二〇センチメートル、奥行六〇センチメートル、高さ約七八センチメートル(規格は八〇センチメートルであるが、設置の際に調整されている。)で、上部にガスこんろが四個と内部にガスオーブンが一個備え付けられており、後部は厚さ約三ミリメートルの鋼鈑製で、オーブンと後部鋼鈑との間に断熱措置は採られておらず、オーブンの熱が直接に後部鋼鈑に伝わる構造となっていた。本件ガスレンジは、顧客の注文に応じて料理を焼く際等に点火されるのはもちろんであるが、完全に火を消してしまうと器具が冷えて顧客の注文に即応できなくなるため、本件店舗の営業時間中(午前一一時から翌日午前三時)はほとんど常時火を細めておくか少なくとも種火を点火して保温状態にしており、このような状態にあったオーブンの熱により、レンジの後部鋼鈑が高温となる状態が長期間継続し、その熱が背部の壁に磁器タイルを経てベニヤ板の内壁を長時間にわたり熱し続けた結果、ベニヤ板の内壁が発火して本件火災が発生するに至ったものである。

2  本件ガスレンジの配置について

そこで、次に本件ガスレンジが、右に認定したように出火建物の調理室の、内部が木製の壁に接着して設置されるに至った経緯について検討するに、《証拠省略》によれば、次の事実を認めることができ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

(一)  被告マルゼンは、厨房機器の製造、販売等を業とする会社であるが、従前から厨房機器の販売に付随して、調理室における厨房機器の配置設計、据付工事の施工も行っており、本件店舗に関しては、昭和五四年四月初めころに、被告マルゼンの営業課員である森田が、被告和田の夫で本件店舗の実質上の経営者である和田久夫から、本件店舗を改装することを聞いて、同人に被告マルゼンと業務提携関係にある内装工事業者のインテリアICVを紹介した結果、インテリアICVが内装工事全般の設計、施工、監理を担当し、被告マルゼンが厨房機器の販売と配置設計及び設置工事の施工を行うことになった。

(二)  被告マルゼンが設計した本件店舗の厨房機器の配置では、本件ガスレンジは、現実に設置されたとおり調理場東側の壁に接着して設置するようにされていた。

(三)  本件ガスレンジの周囲の防火対策については、森田が、インテリアICVの現場監督の小川敏夫に対して、内装工事の途中に、本件ガスレンジの両脇は、排気口があるため熱を持つので断熱の手段を講じるよう要請したが、ガスレンジの背部については余熱が回らないから安全であると述べていた。そのため、インテリアICVは、本件ガスレンジの両脇の部分は、構造物が接着しないようにしたうえ、モルタルの塗布や断熱マットを張るなどの断熱方法を講じたが、背部の壁は右のような方法を講じなかった。

(四)  また、和田久夫も、本件店舗の内装工事中に、従前のガスレンジは後部を壁から約一五センチメートル位離して設置されていたのに、本件ガスレンジは壁に後部を接着して設置することについて不安を抱いて、森田に対して壁から離して設置するなり、壁の前にレンガを積むなりしたほうがよいのではないかと述べたが、森田から、本件ガスレンジの後部は、鋼鈑が二重構造になっていて中に空間があり、かつ断熱材のアスベストが張ってあるから、余熱が後部に回ることは絶対にない旨いわれたため、それ以上の防火措置の要請をしなかった。

(五)  以上のような経緯の後、本件ガスレンジは、被告マルゼンがした配置設計どおりに、調理室東側の壁にほぼ接着して設置されたが、本件火災後になって、本件ガスレンジは、森田の述べたような後部に断熱構造を有するものではなく、前記のとおりオーブンで発生した熱が直接背部の鋼鈑に伝わる構造のものであって、森田は、本件ガスレンジの構造を誤認していたことが判明した。

3  被告らの責任についての判断

(一)  被告川澄及び同和田の土地工作物責任

被告川澄が、出火建物の所有者であり、被告和田への賃貸人であること、被告和田が同建物の賃借人で直接占有者であることは、当該各被告と原告らとの間に争いがない。

そこで、被告川澄が、民法七一七条一項の占有者に該当するかどうかの判断は暫く置き、出火建物の調理室の壁についての構造上の瑕疵の存否を以下に検討する。

(1) まず、出火建物に対する建築基準法上の規制の関係をみるに、出火建物が防火地域に存在していたことは、前記のとおりであり、建築基準法六一条によれば、防火地域内の延面積が一〇〇平万メートルをこえる建築物は、耐火建築物としなければならない旨規定されている。

ところで、出火建物だけの延べ面積は前記のとおり四六平方メートルであるが、出火建物は、別紙図面1記載の②及び⑤の建物と共用の板壁によって接続しており、これら全体で一棟の建物を構成しているものと考えられるから、その延べ面積の合計は一九六平方メートルであるというべきであるにかかわらず、主要構造部の壁、柱等を耐火構造とした耐火建築物でなかったことが明らかである。

しかし、建築基準法三条二項によれば、防火地域内における建築物についての右制限は、同法が施行又は適用された際(右適用には、防火地域の指定によって同法の規制が新たに行われる場合も含まれる。)に現に存する同法の規制に適合しない建築物については、原則として適用されないものとされているところ、出火建物の建築された正確な時期は証拠上明らかでないものの、《証拠省略》によれば、同建物は終戦後間もない時期に建築されたことが認められ、建築基準法施行日の昭和二五年一一月二三日には既に存在していた蓋然性が高く、出火建物の存在する地域が防火地域に指定されたのは、更にその後であると考えられるから、出火建物は、右規制の適用されない建築物であったと推認され、同建物の壁等が耐火構造を有していなかったとしても、直ちに同建物が建築基準法六一条に違反していたということはできない。

(2) もっとも、出火建物が、右に述べたように建築基準法の規制が適用されない建築物であるとしても、これをレストラン営業の用に供する場合には、その壁等が右営業上で通常予想される使用方法において火災発生の危険がないような構造でなければならないのは当然である。

この点について、原告らは、レストランの調理室の壁、とりわけガスレンジの設置された付近の壁は耐火構造とされていなければならないと主張するが、右にいう耐火構造が、建築基準法二条七号に規定する耐火構造、すなわち、火災による加熱に一定時間耐える得る鉄筋コンクリート造、レンガ造等の構造をいう趣旨とすれば、同法上レストランの調理室について、これを一律に耐火構造としなければならない旨の規定はなく、実際上も、木造建物における飲食店営業が行われていることの少なくない現状において、その調理室の全部又は一部を必ず耐火構造としなければならないとすることは、望ましいことではあっても現実的なものとはいい難く、出火建物の調理室の壁が耐火構造でなかったことをもって、直ちに瑕疵があったということはできない。

そこで、更にレストラン等の調理室において一般的に要求される壁の構造を検討するに、建築基準法三五条の二、同法施行令一二八条の四第四項、一二九条六項は、住宅の用途に供する建築物等以外の建築物の調理室で、かまど、こんろその他火を使用する設備若しくは器具を設けたものは、その壁及び天井の室内に面する部分の仕上げを、不燃材料又は準不燃材料でしなければならない旨のいわゆる内装制限の規定を置いており、右の規定はレストラン等の調理室について一般的に要求される規制として考えることができるが、右規定も壁等の室内に面する部分の仕上げについて規制するに止どまるものであり、前記のとおり、本件ガスレンジが設置された背部の壁は、厚さ一二ミリメートルのベニヤ板に厚さ五ミリメートルの磁器タイルが貼られており、右のベニヤ板に貼られた磁器タイルは、不燃性を有するものと考えることができる(もっとも、建築基準法二条九号の不燃材料及びこれに準ずる準不燃材料は、建設省告示による一定の試験を合格したものに限られているから、右のベニヤ板に貼られた磁器タイルが、同法による不燃材料又は準不燃材料に該当していたかどうかは、厳密には不明であるが、同法の不燃材料は、材料自体の不燃性又は有害ガスが発生しないことを基準としていることからすると、右磁器タイルが不燃材料に当たる可能性は高いと思われる。)から、この点でも出火建物の壁に瑕疵があったものと即断することはできないというほかはない。

そして、既に述べたとおり、本件ガスレンジが、基本構造が木製の壁に接着して置かれるに至ったのは、厨房機器の専門業者である被告マルゼンの従業員が、本件ガスレンジの構造を誤認していた結果、和田久夫が疑問を呈するなどしていたにもかかわらず、これを壁に接着して設置するように、同人及びインテリアICVの現場監督らに指示ないし指導したことによるものであって、本件ガスレンジは厨房機器の設置に際して基本的な認識に誤りのある設置方法がされていたものであることも考慮すると、出火建物の調理室の壁が前記のような構造であることをもって、レストランの調理室の壁として通常有しなければならない安全性を欠く、瑕疵のあるものであったことを直ちに認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

(3) そうすると、被告川澄及び同和田の土地工作物責任を理由とする損害賠償請求は、その余の点を判断するまでもなく理由がない。

(二)  被告川澄の不法行為責任

《証拠省略》によれば、被告和田は、本件店舗の改装工事について、事前に賃貸人の被告川澄から承諾を取り、同被告は、改装工事中に二、三度本件店舗に訪れていることが認められ(《証拠判断省略》)、また、被告川澄本人尋問の結果によれば同被告は、本件店舗の隣家である別紙図面1記載②の建物に居住していたことが認められるから、同被告は、出火建物の調理室の壁の状況及び本件ガスレンジの配置の状況をある程度は知っていたものと推認することができる。

しかし、被告川澄が、本件ガスレンジが壁にわずか三ミリメートルの間隔しかない状態で設置されていたことまで知っていたことを認めるに足りる証拠はなく、また、磁器タイル貼りの木造の壁に業務用ガスレンジが相当程度近接して置かれていることを同被告が知っていたとしても、そのことから直ちに火災発生の危険までも容易に予見できるものとはいい難いから、同被告が、右の状況を知りながら被告和田に出火建物を使用させていたことに、重過失があったものとは認めることができない。

また、前記のように、レストラン等の調理室の壁は内装について規制があるものの、その基本構造まで常に耐火構造としなければならないものとはいえないから、一般的にオーブン付ガスレンジを設置、使用するレストランの営業用建物の調理室の壁の基本構造を木造のまま賃貸すること自体が、賃貸人の重過失にあたるということもできない。

したがって、被告川澄に対する不法行為を理由とする損害賠償請求は理由がない。

(三)  被告和田の不法行為責任

既に認定した事実によれば、被告和田の夫で本件店舗の実質的な経営者である和田久夫は、本件ガスレンジの設置に当たり、厨房機器の専門業者である被告マルゼンの従業員の森田から、本件ガスレンジの後部が二重の断熱構造となっていてオーブンの余熱が回らない旨説明されており、森田の説明した内容が相当具体的なものであったことも考慮すると、和田久夫が、森田の説明を信用して本件ガスレンジを壁に接着した状態のまま使用していたことも、やむを得ないというべきであり、《証拠省略》によれば、本件ガスレンジはこれに接続されるガスの配管の関係や相当な重量があることから、いったん据え付けると、その後これを動かすことはたやすくできないことが認められ、右事実からすると、被告和田側で、本件ガスレンジを使用中に、後部が高熱になっていることを認識しなかったとしても、直ちに過失があったものということはできない。

そして、他に被告和田に原告ら主張の重過失があったことを認めるに足りる証拠はないから、同被告に対する不法行為を理由とする損害賠償請求も理由がない。

(四)  被告マルゼンの責任

被告マルゼンが、本件店舗の厨房機器の販売と配置設計及び設置工事を行ったこと、右配置設計において本件ガスレンジは調理場東側の壁に接着して設置するようにされていたこと、被告マルゼンの営業担当者の森田が、インテリアICVの現場監督及び和田久夫らに対して本件ガスレンジの構造を誤認して後部に熱が回らない旨述べていたことは、既に認定したとおりであり、《証拠省略》によれば、次の事実を認めることができ(る。)《証拠判断省略》

(1) 被告マルゼンは、昭和五四年当時、自社ではガスレンジの製造を全くしておらず、他から購入したガスレンジを被告マルゼンの製品として顧客に販売していた。

(2) 右ガスレンジの購入先は、もとは大伸工業一社だけであったが、昭和五四年二月ころからヒカリ厨房からも月四〇台以上購入するようになった。

(3) 大伸工業から購入していたガスレンジは、後部が断熱のため二重構造となっており、森田は、従前から被告マルゼンのガスレンジは後部が安全なもの思って、顧客に対してもそのように説明していた。

(4) ヒカリ厨房は、昭和四二年から業務用のガスレンジを製造し、厨房機器販売業者にこれを納入してきたが、同社の製品は従前から後部に二重の断熱構造を施したものではなく、被告マルゼンに納入したガスレンジも同様であった。

(5) 被告マルゼンは、ヒカリ厨房からガスレンジを購入するようになった際、右ガスレンジの構造の調査や安全性のテストを全くしておらず、そのため、右ガスレンジの構造が大伸工業の製品と異なり、後部に余熱の回る危険性のあるものであることを、社内の仕入担当者、技術担当者及び営業担当者等の誰もが知らなかった。

(6) 森田も、本件ガスレンジが従来の大伸工業の製品と同一のものと思い込み、被告和田にこれを販売するに当たり、その内部構造を確認しないまま、後部が二重構造で安全である旨インテリアICVや和田久夫に述べ、出火建物の調理室の壁の構造が耐火構造になっていないことを十分に知りながら、本件ガスレンジを壁に接着して設置することを指導するなどした。

右に認定した事実によれば、被告マルゼンは、火気を使用し火災発生源となる危険性のある厨房機器の販売業者であるにもかかわらず、ヒカリ厨房から業務用ガスレンジを仕入れた際、その構造及び安全性の検査を全くせず、右業務用ガスレンジの有する性質を技術担当者や営業担当者等に周知、徹底する方策をなんら採らないまま、顧客に対してその配置設計をするとともに販売をしていたのであり、本件ガスレンジの配置設計及び森田による配置に関する指示も、右のような状況の下になされたものということができる。

そして、既に認定した事実関係によれば、本件火災が発生したのは、直接には被告マルゼンの従業員である森田が、本件ガスレンジの性質を誤認して、不適切な設置方法を指示した過失に起因するものということができるが、森田が右のような指示をしたことについては被告マルゼンにおける仕入れ製品の構造及び安全性の検査をし、その結果を営業担当者等に周知、徹底すべき者が、これを行っていなかった過失も競合して存在したということができ、これらの被告マルゼンの従業員の過失は、厨房機器の販売業者の従業員として通常しなければならない注意を、著しく欠いたものというべきであり、失火責任法の重過失に該当するものといわなければならない。

したがって、被告マルゼンは、民法七一五条一項により、原告らが本件火災によって被った損害を賠償すべき責任がある。

三  原告らの損害について

1  原告満子

(一)  被害建物の損害

《証拠省略》によれば、被害建物は、昭和三七、八年ころ建築され、昭和四三年ころに全面的に改築された建物であるが、本件火災により、二階部分はほぼ全焼し、一階部分も天井が焼け落ちる等の被害を受けたこと、原告満子は、大成火災海上保険株式会社(以下「大成火災」という。)との間に被害建物の保険金額一一〇〇万円の損害保険契約を締結していたが、本件火災発生の直後のころに、大成火災の鑑定人が被害建物を実際に見分して損害額を査定した結果、被害建物の再取得価額は一二四八万二〇〇〇円で、これに経年減価をした時価は九九八万六〇〇〇円であり、火災による損害率を約九〇パーセントとみて、損害額を九〇〇万円と査定し、同額が損害保険金として原告満子に支払われたこと、以上の事実を認めることができる。

そして、右に認定した大成火災の査定損害額は、その方法等からみて一応信頼することのできるものであるということができ、被害建物につき右査定金額を超える損害が生じたことを認めるに足りる証拠はないから(原告らは、被害建物の内装についての損害も主張するが、右査定金額には建物の内装の損害も当然含まれているものというべきである。)、右保険金の支払により被害建物の損害は既に全額填補されているといわざるを得ない。

(二)  家財の損害

《証拠省略》によれば、原告満子は、被害建物の二階に居住していたが、本件火災によりその所有の家財が全部焼失したこと、右家財についても大成火災の損害保険が掛けられており、前記の鑑定人は、原告満子の家財の損害額を六二九万三〇〇〇円と査定し、契約保険金額の三〇〇万円が保険金として支払われたこと、以上の事実を認めることができる。

この点について、《証拠省略》中には、原告満子の家財の損害額を六九〇万六〇〇〇円とする部分があるが、右各証拠中の個々の家財の存在及びその時価の評価は、原告らの記憶と評価によるもので、客観的な裏付けを欠くといわざるを得ないから、これをそのまま全面的に信頼することはできない。

そして、前記大成火災の査定金額は既に述べたとおり一応信頼できると認められるから、原告満子の家財の損害額は前記査定額の六二九万三〇〇〇円の限度でこれを認めることができ、右金額から支払済の保険金額を控除した残金三二九万三〇〇〇円が填補されていない損害ということができる。

(三)  慰謝料

《証拠省略》によれば、原告満子は、本件火災により住居が焼失し、そのため一時弟のもとに身を寄せることを余儀なくされたほか、夫の位牌や家族の写真が焼失するなどしたことから、相当程度の精神的苦痛を受けた事実を認めることができる。

右の事実と既に認定した諸般の事情を勘案すると、原告満子の本件火災による精神的苦痛に対する慰謝料は、七〇万円が相当である。

2  原告一喜

《証拠省略》によれば、原告一喜は、妻及び三人の子とともに出火建物の二階に居住していたが、本件火災により同原告所有の家財も全部焼失したことが認められる。

ところで、《証拠省略》によれば、同原告がその記憶に基づき、かつ同原告の時価評価に基づいて算出した右家財の焼失による損害は合計六四四万二〇〇〇円であることが認められるが、その個々の家財の存在及び時価評価の正確性についての客観的な裏付けはなく、これを直ちに全面的に信頼することはできないというほかはないが、同原告の家財については、原告満子の場合のように損害保険が掛けられていなかったため、火災直後にこれを査定する方法も講ぜられておらず、このような場合の焼失家財の損害についての立証の困難性も考慮すると、その立証の程度を余り厳しくすることも妥当ではないから、右の同原告が算出した損害額を一応の基準とし、これに時価評価の信頼性の程度を考慮し、控えめな認定として右損害額から二割強を減額した五〇〇万円をもって、同原告の家財焼失による損害と認める。

3  原告会社

《証拠省略》によれば、厚告会社は、本件火災当時、被害建物の一階でスポーツ用品販売業を営み、商品の大部分を同建物の一階に保管していたが、その一部が消火の放水のため水を被ったり、焦げたりして商品価値がなくなったため廃棄処分せざるを得なかったことが認められる。

そして、《証拠省略》によれば、原告会社の商品についても大成火災の損害保険が掛けられており、前記鑑定人が本件火災直後に個々の商品を調査して、損害を査定した結果は、保険の対象となる商品の時価総額は一〇五五万一六九〇円で、損害率は約六八パーセントであり、損害額は七一七万六五〇五円とされ、その内六八〇万一二八四円が損害保険金として原告会社に支払われたことが認められる。

ところで、右商品についても、《証拠省略》は、その損害額を九八二万一五〇〇円としているが、既に述べたと同様の理由により、右損害額を直ちに全面的に信頼することはできないのに対して、前記大成火災の査定金額のほうがその方法等からみて信頼に値するというべきであるから、その査定金額の七一七万六五〇五円から支払済保険金額を控除した残金三七万五二二一円が填補されない損害額であると認める。

四  以上によれば、原告らの請求は、被告マルゼンに対し、原告満子は三九九万三〇〇〇円、原告一喜は五〇〇万円、原告会社は三七万五二二一円及び右各金員に対する不法行為後の昭和五四年九月二日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、被告マルゼンに対するその余の請求及び被告川澄、同和田に対する各請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言について同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 寺尾洋)

<以下省略>

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